地域とワイン産業が互いに貢献しあうナパワイン

カリフォルニアワイン

ラグビーW杯日本代表のスローガンで、2019年の新語・流行語大賞にも選ばれた”OneTeam”という言葉。記憶に残っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか? 

”全員で一体感のある組織を目指す”という、この”OneTeam”の精神。じつはナパのワイン造りにも息づいています。 ナパ・ヴァレーでは地域が一体となってワイン産業を守り、ワインの造り手たちはその恩恵を地域に還元する といった風土がしっかりと根付いています。

地域と産業がチームとしてタッグを組んでいるからこそ生み出される世界品質のナパワイン。ナパのワイン造りには、まさに ”Teamナパ” と呼びたくなる取り組みがあります。

地域で育てるワイン産業

農業用地保護法により確保されるブドウ畑

地球の環境問題が深刻化し、サステナビリティ(持続可能性)という言葉は今や日常的に使われるようになりましたが、ナパ・ヴァレーでは 50年以上も前から自然環境を保護するための取り組みが行われています。

1968年、アメリカ初となる 農業用地保護法 がナパ・ヴァレ―を対象に制定され、 ナパの土地は農地として利用されることが保証 されました。この法令は今も厳しく順守され、 32,000エーカーに及ぶブドウ畑と周辺の丘陵地を保護 しています。

また1976年に設置された ナパ郡土地信託 も土地の保護に一役買っています。土地の利用方法を定めた保護地役権によって、 土地保有者は所有地を恒久的に土地開発から守ることが義務 付けられ、 ナパの55,000エーカーもの土地や緑地は農地として使用されることが今も約束 されています。

Napa Valley 1940

Napa Valley 1940

Napa Valley 2005

Napa Valley 2005

Santa Clara Valley 1940

Santa Clara Valley 1940

Santa Clara Valley 2005

Santa Clara Valley 2005

提供:Napa Valley Vintners

この他、ワイナリーの定義条例やセットバック条例など、ナパ・ヴァレーではいくつかの施策を設け、幾重にも手厚く土地を保護しています。ナパは厳しい規制を敷くことで土地開発の手からブドウを育む大地を守り、美しい田園風景を次世代へと残す努力を続けています。

”ナパ・ヴァレー”というブランドの保護

”ナパ・ヴァレー”は地理的な名称であるとともに、 銘醸ワインの産地を示す地域ブランド としての一面も大きいでしょう。

ナパ・ヴァレーは1981年、良質なワイン産地としてカリフォルニアで初めてAVA(アメリカ政府認定ブドウ栽培地域)の指定を受けます。しかし、これによりナパ・ヴァレー内の小地域がそれぞれのネステッドAVA*を求めるようになり、不協和音が生じたことから、ワインの造り手たちは ラベル表示に関する法案を提唱 しました。

ナパヴァレー

提供:Napa Valley Vintners

これを受けて、1990年に制定されたのが 結合ラベル法 です。 ラベルに準地域であるネステッドAVAを表記する際には、ナパ・ヴァレーという産地のAVAを併記することが義務付けられ 、ナパ・ヴァレーAVAとしての価値が守られました。

ナパの取り組みは、こうした法の整備だけではありません。 ”ナパ・ヴァレー”という名称の保護 についても力を注いでおり、その活動はアメリカ国内のみならず、 欧州を始めとする世界各国に及んでいます。

ナパでは、 ラベルに”ナパ・ヴァレー”と刻まれる以上、その名に偽りのないワインが提供されるべき と考え、ナパのブドウが使われていないワインのラベルに”ナパ・ヴァレー”の名称を使用することを禁じ、厳しい監視を行っています。こうした組織的な活動が認められ、 2007年に欧州で欧州連合以外の産地としては初めて地理的表示を獲得 しました。さらに 2012年には欧州勢に先駆けて、中国で正式に認定されたワイン産地の第1号 ともなっています。

ナパが世界的な銘醸ワインの産地として多くのワイン愛好家に支持されているのは、こうした消費者ファーストの取り組みに源流があるのかもしれません。

※ ネステッドAVA:ナパ・ヴァレーAVAをさらに細かく16のAVAに分けたもの。

ワインの品質向上のために協力しあう文化

交流を深めて知識を共有する造り手のコミュニティ

ナパのワイン産業の特色の一つに、協力の文化があります。

ナパ・ヴァレーには ワインの品質向上のために知識を共有しあう風土 が根付いており、ワインの造り手たちはワイン・テクニカルグループの会議や話し合いへの参加、地元のレストランでのイベントや日常生活での交流など、さまざまな機会を設けて知識の共有を図っています。

風通しの良いナパのコミュニティは、フレンドリーな土地柄を反映するものといっても良いでしょう。 周囲に手を差し伸べる助け合いの文化は、ナパに訪れた方が魅力に感じる部分でもあり、地域全体のワイン造りの技術を高め、品質向上に大きな役割も果たしています。

ワイン・ディレクター 秋月 康孝

ステラ専任ソムリエ
秋月

ナパワインの良さの一つに助け合いの精神があります。

教育機関との連携で学ぶワインの生産技術

ワイン造りに関する技術が教育機関を通じてオープンに提供されている点も、ナパの特徴の一つです。

カリフォルニア大学デイヴィス校やソノマ州立大学、地元のコミュニティ・カレッジといった 教育機関に設けられたワイン学のプログラムは広く門戸が開かれており、ワインの造り手たちはこれを受講して知識の向上に努めています。

広範囲にわたるプログラムはワイン生産者のブラッシュアップにつながります。 地域に提供される学びの場で得た技術や知識という目に見えない財産は、ワイン造りの場にフィードバックされ活かされています。

ナパヴァレー

ソノマ州立大学
引用:https://news.sonoma.edu/

ナパヴァレー

UCデイヴィス校
引用:https://studyabroad.shiksha.com

ワイン業界が手掛ける地域貢献

オークションによる地域貢献

地域を挙げた土地や名称ブランドの保護、助け合いの精神が根付いているコミュニティは、ワイン産業が行う地域貢献においてもまた一線を画したユニークな形が見られます。

ナパ・ヴァレーでは、ワインの造り手たちがチャリテーオークションを開催し、地域医療や自動教育の支援に収益を提供することで、地域貢献を図っています。

イノベーター(革新者)と称されるナパのワインメーカー。地域に支えられている恩恵は、チャリティ活動を介して地元の人々へと還元します。

1981年のオークション

[オークションの収益は地域医療や児童教育分野の非営利団体に提供される]
提供:Napa Valley Vintners

プルミエ・ナパヴァレー

ワイン産業が手掛ける地域貢献として、ナパでは年に一度、プルミエ・ナパヴァレーというチャリティオークションを行っています。 ワイン業界の関係者を対象 としたプルミエ・ナパヴァレーは、 少量生産の限定ワインが出品 されることで知られており、多くの業界人が集うイベントとなっています。

これに出品されるワインは、ナパのワイナリーが オークション用に特別に造り、提供したもの 。珍しい品種や特別な畑のブドウを使ったワイン、独創的なブレンドをしたワインなど、いずれも 通常のラインナップでは見られない個性派作品 が並びます。

このオークションはユニークなワイン造りを通して、 ナパワインの品質向上を図ることも目的の一つ としています。
プルミエ・ナパヴァレーは醸造家にとって地域貢献の慈善事業であると同時に、自らの力量と創造性を試す絶好のチャンスでもあります。 収益をもたらすだけでなく、醸造家やワインメーカーの技術革新にも貢献 しているイベントと言えるでしょう。

1981年のオークション

[ワイン業界関係者を対象にしたオークション
「プルミエ・ナパヴァレー」]
提供:Napa Valley Vintners

1981年のオークション

[プルミエ・ナパヴァレーの出品ワイン]
提供:Napa Valley Vintners

コレクティヴ・ナパヴァレー

ナパでは慈善事業のもう一つの大きな柱として、『コレクティヴ・ナパヴァレー』という募金活動を行っています。

この活動の前身となったのは、 地元のコミュニティを支援する資金集めのため に立ち上げた『オークション・ナパヴァレー』。巧みなマーケティング戦略でナパの名を世界に広めた ロバート・モンダヴィ夫妻が、仲間のワイナリー経営者とともに1981年に行ったチャリティオークションがその始まり でした。このイベントは約40年にわたって毎年開催され、これまでに 2億ドル以上の収益を地域医療や教育分野などの非営利団体に提供 しています。

2021年からは新たなコンセプトを持たせた『コレクティブ・ナパヴァレー』に転身し、それまでのような年次イベントではなく、年間を通じて幅広く募金活動を行う寄付組合に移行しました。
地道な募金活動でナパの未来を担うべく、今日もたゆまぬ努力が続けられています。

1981年のオークション

[1981年のオークション・ナパヴァレー]
提供:Napa Valley Vintners

編集後記

~ 支える地域と貢献するワイン産業の相互作用から生まれるナパワイン ~

一流の銘醸ワインは造り手の努力のみで生まれるわけではありません。
ワインが育まれる環境、ブランド力を守る知恵、品質向上のための学びの場、互いに切磋琢磨できるコミュニティ。すべてが銘醸ワインを作るための大切な要素です。

ナパ・ヴァレーには、地域とワイン産業が互いに支え合う文化があります。
地域がワイン造りに欠かせない環境を提供し、産業は慈善活動を通して地域に貢献する。こうした相互作用がこれほど上手く機能しているのは、世界に点在するワイン産地の中でも、そう多くはないでしょう。

ナパが世界レベルの銘醸ワインを育むことができるのは、地域と造り手が心を一つに取り組むチームプレーがあってこそ。”Teamナパ”のファインプレーに魅了される愛飲家もきっと多いことでしょう。

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