ナパの気候と土壌が醸す希少ワイン

カリフォルニアの土壌

自然が生み出す造形は、時に思わぬ恩恵をもたらすことがあります。

ナパ・ヴァレーが地球から譲り受けたのは、温暖で乾燥した気候とブドウ栽培の好条件を引き出す地形、そして種類に富んだ多彩な土壌でした。
ナパが世界クラスのワイン造りを実現できたのは、やはりこうしたテロワール*1に恵まれてのことでしょう。

ナパワインが世界で高い評価を得ている理由。それはナパ・ヴァレーの風土と大きな関係があります。

それでは、ナパならではの唯一無二のテロワールを軸に、ナパワインの魅力を探っていくことにしましょう。

ナパで高品質な世界クラスのワインが生み出される理由

理由その1. 地上でわずか2%しか見られない地中海性気候の恵み

地中海性気候と聞くと、その名前から地中海沿岸の地域のみに分布しているものと思われることも多いようですが、意外なことにカリフォルニアの一部でも同様の気候が見られ、ナパ・ヴァレーもまさに地中海性気候のエリアに属しています。

さて、地中海性気候の大きな特徴といえば、夏に雨が少なく乾燥していること。
ブドウは雨が多いと樹勢が強くなり、凝縮した良い果実を付けることができません。そのため、少ない水分で育つことが良しとされるブドウ栽培にとって、地中海性気候のこうした特性は理想的な環境といえるでしょう。

ナパでは生育期にほとんど雨が降らず湿度が低いことから、病気にかかるリスクが抑えられ、毎年安定した品質のワインが生産されています。

また晴天率の高さは、良質なブドウを収穫するために必要な日照時間の確保というメリットも生んでいます。ブドウ果実は生育期間に日光をたっぷりと浴びることで光合成が促され、必要な糖分をしっかりと蓄えて完熟を迎えることができるからです。

とりわけ冷涼な地域では熟成が難しいとされるカベルネ・ソーヴィニヨンにおいては、降り注ぐ太陽の光は欠かせないものとなっています。

ちなみにこの地中海性気候、地中海沿岸とカリフォルニアの他には、ケープタウン(南アフリカ)、パース(オーストラリア)、サンティアゴ(チリ)といったエリアに分布しています。新・旧含めて主だったワイン産地と見事にリンクしているあたりは面白い限りですが、ごく限られたところにしか存在していません。面積にして地表のわずか2%。ブドウ栽培に適した気候が、いかに少数精鋭の選ばれし土地なのかということがわかります。

地中海性気候

[オレンジの部分が地中海性気候]

温帯の気候区分の一つである地中海性気候は、温暖で爽やかな暮らしやすいエリア。人間にとって心地よい場所は、ブドウにとっても過ごしやすい環境なのですね。

理由その2. ”カリフォルニアの霧”が品質の高いワイン造りを完成させる

日照と乾燥した環境があっても、それだけでは高品質なワイン造りは完成されません。
素晴らしいワインの醸造には上質なブドウ果実が必要であり、その収穫にあたっては気候条件とともに昼夜の寒暖差も重要なファクターとなります。

ナパが世界クラスのワインを生み出す背景には、地形と地理によるところも大きくあるのでしょう。ナパ・ヴァレーが位置しているのは、海にほど近い山脈の中。そのユニークな立地が、ナパ・ヴァレーに寒暖差をもたらしていると考えられます。

カリフォルニアの霧

[カリフォルニアの霧]

海岸に面してはいないものの海との距離が近いナパでは、夜になると太平洋の冷たく湿った空気が内陸に引き寄せられて霧となります。霧は夏の期間ほぼ毎日のようにナパ・ヴァレーの南にあるサン・パブロ湾と北部のロシアン・リバー・ヴァレーで発生し、ナパ全域を涼しさで満たしていきます。標高や地形によって違いはありますが、その気温差は最大のところで20〜25℃、最小のエリアでも7.5〜10℃もあるのだとか。

ブドウは気温の高い日中に光合成をして糖分を作る一方で、夜の冷え込み時は新陳代謝を下げてゆっくりと呼吸をすることで適度な酸味を維持します。

均一に熟しながら、甘みと酸味のバランスが取れた上質なブドウ。それはカリフォルニアの名物と称される”霧”の存在なくしては叶わなかったことでしょう。

理由その3. 多種多様なテロワールの存在

ナパワインは品質の高さのみならず、エリアごとに多彩なスタイルがある点でも高い評価を得ています。

ナパ・ヴァレーでは、なぜバラエティ豊かなワインが生産できるのでしょうか?

その答えは土壌にあります。
ナパには世界で認められる土壌目*2の約半数が存在していると言われるほど、様々な土壌が見られます。

火山活動で噴出したマグマにより長い年月をかけて形成された様々な岩床は、時間の経過とともに風化と堆積を繰り返し、やがてブドウが根付くことのできる土壌へと変化しました。

現在のナパ・ヴァレーの大地は、この100万年で形成されたものと言われていますが、その土壌は大まかに”山” ”沖積” ”河川”の3つに分けられます。

どの岩床に由来し、どんなプロセスを経てきたのか。3つの土壌はそれぞれに異なる経歴を持ち、ブドウ栽培に与える影響も大きく異なります。

ナパの3つの土壌がもつ特徴、育つ果実の特徴

表土層が浅く、養分の乏しいやせた土になります。比較的厳しい環境にあるため、この土壌で育つブドウは小ぶりで味の濃い果実となり、はっきりとしたタンニンと複雑な香りが特徴的です。 山の土壌
沖積 丘の斜面から流された土が堆積して出来た”沖積”の土壌は石を多く含み、適度に肥沃で水はけの良い土壌。ト・カロンやマーサズ・ヴィンヤードなど、有名なブドウ畑が多く存在し、山の土壌に比べるとフルーティーなワインが目立ちます。 沖積の土壌
河川 山や沖積に比べると、河川土壌の土は肥沃で沈泥と粘土質のため保水力が高いのが特徴です。樹勢を抑えるために乾地農法を用いる生産者が多く、果実味が豊かでタンニンが柔らかく、早くから美味しく味わえるワインになります。 河川の土壌

写真提供:Napa Valley Vintners

3つの土壌についてご紹介しましたが、様々なプロセスを経て今の形となったナパ・ヴァレーのテロワールは実際にはもっと複雑で、さらに細分化されています。

地形、標高、土壌などいくつもの条件の組み合わせから、じつに多様なテロワールが存在しており、それを証明するかのごとく、ナパ・ヴァレーでは山の麓から谷底に向かってパッチワークのように様々なブドウ畑が広がっています
そして、その一つ一つの畑で土壌に合うブドウの品種選定や栽培が丁寧に行われ、数多くの高品質なワインが生み出されています。

多様な土壌が繰り出す多彩なワインスタイルは、ナパワインの大きな魅力の一つです。

多様な土壌

提供:Napa Valley Vintners

奇跡のテロワールが生み出すナパワイン

1976年の”パリスの審判”を機に、世界の銘醸ワインの仲間入りをしたナパワイン。歴史を振り返れば、最小規模のワイン産地が50年足らずで大きく飛躍することができたのも、優れたテロワールの功績が大きかったに違いありません。

ナパ・ヴァレーの自然環境が、ブドウ栽培の要となる気温・日照・降雨といった条件をベストバランスに整え、多種多様な土壌がバラエティ豊かなワイン醸造を叶えたのです。

カリフォルニアの土壌

ナパ特有の気候・地形・土壌。もし、この中のどれか一つでも欠けていたら、世界クラスの銘醸ワインは生まれていなかったかもしれません。
そう考えると、ナパ・ヴァレーのテロワールはワイン造りのために地球がもたらした奇跡のようにも思えてきます。そんな奇跡のテロワールから生まれるナパワインは、まさに希少な至高のワインといえるでしょう。