ラベルからひも解くナパワインの厳格な品質管理

ラベル

ワインのボトルラベルは、その瓶に詰められたワインの生い立ちを実に雄弁に語ります。
どんな土に根を張り、どんな風と太陽を受けて育ったブドウから作られたのか?
どこで、どれ程の時間、熟成を重ねてきたのか?
そこには、一粒のブドウが一滴のワインになるまでの記憶が克明に刻まれています。

1976年、パリで行われたブラインドテイスティング大会、通称「パリスの審判*1でフランスのワインに勝利して一躍脚光を浴び、その品質の高さから名だたる銘醸ワインの一つとなったナパ・ヴァレーのワイン。

今や高級ワインとして位置づけられ、多くの愛飲家を魅了するナパワインですが、そのラベルの表示ルールは思いのほか厳しいものなのだそうです。しかし、その厳しさこそがナパ・ヴァレーワインの原点であり、誇りでもあります。

ラベルに記載できること

ボトルラベルは言うなればワインの顔。それぞれのワイナリーで個性を生かし、独自のデザインを施すものですが、記載する内容については、当然ながらルールに則った決まりを守らなくてはなりません。

ナパワインのラベルを読む前に、まずはラベル表記にはどんな決まりがあるのか見ていくことにしましょう。

ボトルラベルのルール

ラベルに記載する項目には必須のものと任意のものがあります。
AVAのワインの場合*2、表示にはより厳しい条件が適用される項目もあるのですが、それについては後ほど詳しく触れていきましょう。ここでは連邦法に基づいたルールをご紹介します。

ラベル

必須項目

  • ① ブランド名
    生産者名。表に記載がなければ、裏ラベルの瓶詰業者がブランド名。
  • ② ワインの種類
    ブドウの品種名、もしくは赤ワインなどの一般名称が記載される。品種名が入っているものは、ラベルに書かれた品種が容量の75%以上使われている証。
  • ③ 原産地呼称
    アぺレーション。原料のブドウが栽培された場所の地理表示。75%以上がその州や郡で生産されたものであればラベルに載せることができる。②で品種名を入れる場合は必ず記載が必要。
  • ④ アルコール度数
    容量におけるアルコール含有量。度数が14%以下は±1.5%、14%以上は±1%の範囲内での表示が可。

任意項目

  • ⑤ ヴィンテージ
    ブドウが収穫された年。ワインが瓶詰めされた年ではないので要注意。表記された年のブドウを85%使用していれば適用できる。
  • ⑥ サブブランド名
    それぞれのワイナリーのブランドをより差別化するための表示。
  • ⑦ 特別な呼称
    甘さや色など、ワインに特徴立った品質がある場合に記載される。例えば「リザーブ(長期熟成させたワイン)」など。
  • ⑧ ブドウ畑の指定
    使用したブドウが栽培された畑の名前。ブドウ畑の名称の表示は、一定の基準をクリアする必要あり。
  • ⑨ エステイト・ボトルド
    ワイナリーが所有・管理する土地で、ブドウ栽培から発酵・熟成などの醸造過程、瓶詰めまでを行ったものに記載。ブドウ畑とワイナリーがラベルに書かれた地域にあり、生産者が最後まで一貫して行ったことを証明するもの。

ラベルに項目を記載するための品質条件

品質を守り管理するための必須条件基準

カリフォルニアワインのラベル表示はとてもシンプルです。
フランス語に比べて馴染みのある英語で書かれていることもありますが、ブランド、産地、ブドウの品種、ヴィンテージなどの情報を一見しただけでつかむことができます。

こうした情報を読み取るだけで、ワインの骨格は見えてきます。しかしラベルに書かれた地名や年号は、すべてのワインが一様に記載できるわけではありません。

ラベルに項目を記載するには、それぞれクリアしなければならない条件があります。それらの条件はアメリカ連邦政府や州によって様々な規定基準が設けられており、いずれもワインの品質を管理し保証するためのものです。

ラベルに表示された産地やヴィンテージといった情報を表示するための条件が詳しくわかれば、ワインの輪郭はよりくっきりします。品質の高さも実感することができるでしょう。

こうして考えると、ラベルはワインの隠れたプロフィールを知るためのコードのようにも思えてきますね。時には暗号コードを解く気分で、お手元に届いたワインのラベルと向き合ってみるのも楽しいのではないでしょうか?

AVA(ナパ含む)vs 一般エリア(AVA以外)の条件は特に厳しい

一定の条件を満たさなければボトルラベルに項目表示できないことは既にご紹介したとおりですが、さて、ここで注目したいのが、一般的なワインとAVAであるナパワインにおける条件基準の違いです。いくつかの項目において、AVAのワインには、少々厳しい基準が課せられているのです。

では、”AVA vs 一般エリア”と称して、その違いを比較してみましょう。

アぺレーション(原産地呼称)

85%

AVA

ブドウの85%以上が記載のAVAで生産されたものであること。
ただし、カリフォルニアの場合は、100%カリフォルニア産のブドウである必要があります。

75%

一般エリア

使用されたブドウの75%が、その州や郡で生産されたものであること。

ヴィンテージ

95%

AVA

95%のブドウが指定されたヴィンテージでなければならない。

85%

一般エリア

表示されている年以外のヴィンテージを最大15%までブレンドできる。

ブドウ畑の表記

ナパ・ヴァレーの土壌
ナパ・ヴァレーの土壌
ナパ・ヴァレーの土壌

一般エリアとAVAと共通のルールですが、ブドウ畑の表記にも厳しい規定があります。ラベルにブドウ畑を表記できるのは、指定した畑で栽培されたブドウを95%以上使用したものに限られます。

ブドウが育った場所がはっきりと示され、どんな種類のぶどうがどれだけ使われているのかがわかると、品質の確かさを知ることにつながりますね。

「ナパ」ブランドは質の高さの証

厳しい条件をクリアしたワインに与えられる「ナパ」のラベル

ナパのワインはアぺレーションしかり、ヴィンテージもまたしかり、より高い条件を満たさなければ、その名前をラベルに書くことはできません。しかし、だからこそナパ・ヴァレーのワイン造りは徹底した品質管理のもと、条件をクリアするための努力が続けられています。

”ナパ・ヴァレー”の名前は、質の良い風土と作り手のポリシーが結集したワインにのみ与えられる栄誉なのです。

ではナパ・ヴァレーのワイン造りではどのようにして高い品質を管理しているのでしょうか。すべては高品質のブドウ果実を造るところから始まります。次回は、そのために駆使しているアメリカらしいテクノロジーや繊細な手作業による醸造と栽培についてお届けします。

編集後記

~ ワイナリーの想いが込められているラベルの使い方 ~

ラベルはナパの厳格な品質を表す以外にワイナリーや醸造家のセンスや想いも表現されています。
そのメッセージやデザインからもそれぞれの個性を見ることができ、そのワインをさらに深く楽しむことができます。
そんな一例をご紹介いたします。

◆ 醸造家のセンスを感じる一品

こちらのワインはオーナー兼醸造家のロブ・シンスキー氏が造った「ロバート・シンスキー・ヴィンヤーズ 2018 ブラン」です。

どちらが表ラベルだと思いますか?

A

裏ラベル

B

表ラベル

ブランド名やブドウの種類が書いてあるからA??と思いがちですが、正解はBでした!

表ラベルには、ビオデナミ農法の特徴である月の満ち欠けだけが描かれています。
通常裏ラベル側に輸入者シールを貼るのですが、裏と表を間違い、表ラベル側にシールを貼ってしまうというハプニングが起きてしまいました(もちろん貼り直しましたのでご安心を)。ニューヨークの学校でデザインを学んできたロブさんらしいセンスを感じるラベルですね。

◆ 醸造家のメッセージに酔いしれる一品

こちらのワインはオーナー兼醸造家のジェフ・コーン氏が造った「ジェフ・コーン・セラーズ ザ・ファースト・デート2017 」です。

表ラベル

[表ラベル]

Touch, Kiss, Love, Jitters, Chemistry, Butterflies, Crush,Attraction,Anticipation, Flirt,Smiles,Excitement,Spark… THE FIRST DATE

裏ラベル

[裏ラベル]

The start of something special, your heart pounds; the spark of a new romance. You never know unless you go on that first date

このワインは柑橘系の果実味が特徴であるグルナッシュ・ブランと、しっかりとした酸を持つルーサンヌとの「初の出会い」からネーミングされました。

表ラベルでFirst Dateでの恋のドキドキ模様を表現し、裏ではデートに行かないとそのドキドキは味わえないと書かれており、文字通り恋のロマンスの話かと思えますが、異なる白ブドウを初めてブレンドする醸造家の挑戦へのドキドキ、ワクワク感も表現されているのではないかとも読み取れます。

  • 新しいことへの挑戦は恋する気持ちに近いのかしら?
  • このワインは醸造家の挑戦なんだ

そんなことを推測しながら、一緒に飲んでる人と語らうのも楽しいですね。

是非皆様もお届けしたワインの裏ラベルもご覧ください。

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