ナパ、ソノマの山火事から考えるワインと気候変動
世界で問題になっている地球温暖化による気候変動(異常気象)は、カリフォルニアにも暗い影を落としています。特に名産地として世界に知られている、ナパやソノマは毎年深刻な事態になっています。
2019年10月末に、私はワイナリーオーナーや醸造家達の訪問と、自分のオリジナルワイン(AVAナパ)の現地発表会もあり、ナパに向かいました。ところが、着いた翌日早朝にロバート・シンスキー・ヴィンヤードの責任者から緊急の電話が入りました。「ナパとソノマの全地域が停電となり、ワイナリーや家庭でも電気が一切使えない」とのこと。その時既にソノマの北から山火事が起こり、その煙が広がりつつあったのです。
山火事の原因は、異常な乾燥と強風により送電線がスパークし、山の木々に燃え移ったことによるものでした。そのため、電力会社が送電を全て取りやめたのです。ワイン造りの最中であり、各ワイナリーはタンクの温度調整他で大変ご苦労されたと思います。
山火事によるブドウ畑の被害とは?
前置きが長くなりましたが、この異常気象によるナパ、ソノマを含むワイン産地の山火事被害は、規模の大小にかかわらず日常化しつつあります。山火事によりブドウ畑が燃える、あるいは被害を受けるとはどんな内容かご存じでしょうか?
実は、ナパやソノマのブドウ畑は簡単には燃えません。地中にパイプを埋設し灌漑を行っていることで、土壌は水を含み火に強いのです。また、果実自体も水分を含んでいますので、比較的燃えにくいのです。それよりも怖いのが、煙の成分です。果実の皮や中身まで浸透しダメージを与えます。ブドウの木はその葉の気孔で外部の空気の交換を行いますが、煙などが来ると、木は自己保護の為その気孔を閉じ光合成はストップします。スモーキーなフレーバーは醸造して完成したワインに出てしまう為、売り物にはならないのです。
山火事から思うこと
ナパは、毎年収穫期頃に山火事の原因ともなるヒートウェーブ、異常乾燥、強風に襲われます。畑が燃えなくとも、被害を受けた木は枯れるか、回復しても収穫量は減るでしょう。このような気候変動に備え、既にナパのワイナリーでは実験農場を作り、気候変動や温暖化に備えた品種の選定などの試験を行っています。近い将来、主役になる品種も変わり、新たな適合品種が生まれていくと私は予想しています。
「食物連鎖」という言葉は、生きるためのエネルギーを作り出した植物を草食動物が、そしてそれを肉食動物が食べ、我々人間がそれら動植物を食べてエネルギーを得る連鎖のことです。こう聞くと人間が頂点に立っているように誤解しますが、こうした連鎖の中で我々も動植物からの恩恵を得てるのです。そういったことを考えながら「ワイン」という醸造酒を飲むと、ブドウの木のこと、作り手のご苦労を思い感謝の気持ちが湧き、自然や自然を取り巻く環境、そして将来について考える良いきっかけとなるかもしれません。