~クロードの涙~
香港駐在時代に、商社の友人から「クロード」というフランス人を紹介されました。彼は香港でフランス語を教え、生計を立てていたトゥーレーヌ出身の方でした。そんな彼とは気が合い、よくセントラルのランカイフォンのバーで仕事帰りにグローロッシュ(オランダのビール)を飲んでいました。これはクロードがお気に入りのビールで、フランスのビールやワインを飲んでいる彼の姿は見たことがありませんでした。
ある日お礼にと、私は香港のセントラルの高層ビルにあり、海景が見える伝説のブラウンズワインバーに彼を招待しました。白ワインがいいと言うので「ピュリニー・モンラッシェ」を注文し味わうことに。ところが、その時までおしゃべりのクロードが急に黙り下を向いてしまった姿を今でも覚えています。不思議に思い、どうしたのか?と尋ねると、顔を上げた彼の目は涙でうるんでいたのです。てっきりボショネでワインに問題があったのかと、慌てて本人にその理由を尋ねると、「モンラッシェは生涯初めて飲んだ。名称は聞いていたが自分の故郷では地場のワインが沢山有り、美味しく安く飲めるため、ブルゴーニュの高級AOC(現在はAOP)ワインを飲むこともなかった」と話してくれました。
フランス人=ワインに詳しい?
少し話がそれますが、例えばフランスのAOCワインと言っても、生産全体の中に占める割合は25%前後で、またその多くは外貨を稼ぐため海外に輸出されております。つまり結論を言うと、これからも彼の人生で飲む機会も来ないであろうこの高級ワインを初めて飲んで感動したことと、注文した私の配慮に感謝したということが涙の理由でした。
皆さん、ここでつい誤解しやすい、ある事に気づきませんか?それは「思い込み」です。仏、伊、西などワイン生産国から来た人たちは皆、ワインに詳しいという「思い込み」はありませんか?実は、その後の私の経験からすると、ワインが有名な国の方々でも、ワインの事はあまり知りません。逆に、海外から日本に来た外国の人達は、我々日本の殆どの人たちは日本酒のエキスパートだと思い込んでいます。でも、実は何も知らない人の方が多いのです。